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【組織変革事例】心から実現したいビジョン創出による、変革し続ける会社への進化 ー株式会社インテージテクノスフィアー

<目次>

1.事例概要

2.事例インタビュー

3.組織変革成功のキーポイント

 

1.事例概要


1)背景

インテージテクノスフィアは、データ活用ノウハウを駆使し、AI(人工知能)のビジネス適用、システム構築、ソフトウェア開発・販売、各種システム運用・保守など、業務プロセス改善支援を展開している中堅のシステムインテグレーターIT企業だ。事業環境の変化により、以前策定したビジョンが現状に合っていない状態になりつつあった。そのため同社は、中期経営計画策定に先立ち、新たなビジョンを策定することを決定した。同社は、全く異なる事業や価値観をもつ複数の部門から構成されており、部門の違いを超えて、全社の共感を得るためのビジョンをどのように作るのかが課題だった。同社は、それぞれの部門から会社の未来を担うリーダー層を集めてビジョン策定チームを編成し、新たなビジョン策定およびビジョンに向けて会社を変革していくチャレンジを開始した。


2)プロジェクト概要

・プロジェクト期間:約3ヶ月


●ビジョン策定プロセス企画

●オンラインビジョン合宿ファシリテーション:3回(2日間☓1回、1日☓2回 計4日間)


単にビジョンを創ることをゴールとせず、ビジョンに向かって進化し続ける組織への変革をゴールとして、ビジョン合宿を実施。


3)成果

・ビジョン策定チームおよび経営陣の全員が「心から実現したい」と思えるビジョンが明文化された

・ビジョン策定チームが、ビジョンを体現しながら、ビジョンに向かって全社変革を推進するチームになった

・全社へのビジョン浸透活動が始まり、ビジョンに向かって進化し続ける会社になった


<インテージテクノスフィア社 新ビジョン>


 

2.事例インタビュー


株式会社インテージテクノスフィア

ビジネスインテリジェンス第一本部 BSユニット ユニット長 藤井 克尚

ビジネスインテリジェンス第二本部 旅行企画推進室 室長 三塩 陽介

ビジネスインテリジェンス第二本部 旅行BI部 部長 明石 茂樹

リサーチテクノロジー本部 リサーチシステム一部 部長 橋本 仁美

情報システム本部 システム二部 部長 小島 良元

ビジネスインテリジェンス第一本部 医薬情報三部 部長 長谷川 博信

経営企画本部 経営企画部 戦略企画グループ グループリーダー 強瀬 祐三朗

経営企画本部 経営企画部 戦略企画グループ 土井 克仁


インタビューアー:Co-Evolution株式会社 代表 末広信太郎


ー ビジョンを策定するにあたり、元々感じていた課題感やゴールについてお聞かせください。

藤井:会社創立時のビジョンと現在の会社の姿にギャップを感じていました。また、会社の雰囲気に閉塞感を感じていました。組織が縦割りで、隣の部門のことも見えていない。自分たちの良さを認識できていないし、自分たちのダメなところにも向き合えていない。「社員が言いたいことを言えていないのでは?」「やりたいことをやれていないのでは?」「やりたいことを真剣に考えていないのでは?」という問題意識がありました。社員をモチベートできるビジョンをつくって、閉塞感の殻を破りたいと感じていました。



長谷川:私も閉塞感を感じていました。先行きが見えない不安。自分たちの強みも見えてない。その状況を変えたいという思いがありました。誠実さやお客様重視の姿勢など、私たちには強みがある。一方で、事業の成長への思いや意思の弱さは課題に感じていました。そういった課題を乗り越えながら、私たち本来の強みを活かして、社員がワクワクするビジョンを作りたい。そんな思いでした。



明石:社内に既存を守る意識が強い人が多く、ビジネス拡大や、成長に対する意識が足りない人が多いことを課題に感じていました。成長し、事業拡大していくという意識を会社に浸透させることをビジョン策定のゴールと考えていました。


小島:若い人たちの離職が増えていました。新しいことにチャレンジする雰囲気が少なく、仕事をしていて若い人たちも楽しくないのではないかという課題意識がありました。若い人たちがビジョンによってワクワクして楽しく仕事ができる、そんなビジョンを作りたいという気持ちでした。


三塩:正直に言うと、この会社を好きではなくなってきている自分がいました。収益や数字も大事ですが、何のためにやるのかが見えない中で数字ばかり振ってくる状況や、チャレンジするマインドがないことにも問題意識を感じていました。それを変えたいというのが一番でした。もう一度この会社を好きになりたい。好きになれる会社に変えたい。そのためのビジョンだと思っていました。


強瀬:どんなビジョンでもこの会社のメンバーがこうありたい、そんなビジョンになればいいと感じていました。


土井:インテージテクノスフィアの成り立ちに関係しますが、旧ビジョンはどちらかというとインテージグループ向けの内向志向、安定志向のビジョンでした。次のステップとして今、この会社は、グループ外に向けても事業を成長させていこうとしています。そのためには、全社が一つになる必要があります。同じゴール、目的に向かって事業を進める。その目指すところをビジョンとして一つのものを掲げられたらいいと思っていました。


ー ビジョンづくりのプロセスを、なぜCo-Evolutionに依頼いただいたのですか?


藤井:ビジョンづくりにおいては、人から押し付けられたやり方でやっても、自分たちで作ったビジョンだと感じられない気がしていました。何社か声をかけさせていただいたのですが、Co-Evolution代表の末広さんと話した時に、自分たちの中にあるものを引き出してくれる感覚がありました。コーチングもファシリテーションも得意とされているので、コーチングをするような感じで引き出してくれる。実際にビジョン合宿をファシリテーションいただいて、とても深いところまで引き出していただき、お任せしてよかったと感じています。


長谷川:ビジョン策定メンバーが強烈な個性の持ち主ばかりなので(笑)、正解を押し付けるコンサルティングではなく、引き出してくれる末広さんのようなタイプが良かったと思います。


小島:客観的に第三者から見て当社はどう見えるのかという視点がほしいということもありました。末広さんは同じIT業界出身で当社のことをよく知ってくれていたこともあり、また、対話の中でも当社がどう見えるかを第三者視点で伝えていただけたことで、当社の特徴や強みを認識することができました。そのことがビジョンにもつながったと感じています。


土井:メンバーから引き出しながら、一緒に伴走していただけたおかげで、ビジョンに「魂を込める」ことができました。


藤井:前職時代(※)の末広さんを知っていて、クライアントの案件を死にそうになりながらも終わらせている姿を見ていたので(笑)、投げ出すことはしない、最後までとことん付き合ってくれるという信頼感がありました。


※末広の前職時代、インテージテクノスフィア様とは競合関係にあり、同じクライアント向けにライバルとして切磋琢磨していた過去がある


ー ビジョンづくりのプロセスを経て、ご自身や組織にどんな変化がありましたか?


三塩:会社があまり好きではなくなっていたところに、ビジョンができたことで、会社を変えられるという意識が生まれました。それも小さい次元ではなく、全社的な方向性やマインドといった高い次元で変えられるという意識です。会社の中堅どころやこれから会社を担っていく人たちから、ビジョンへの共感の言葉がたくさん出てきていて、今後に向けて期待が持てています。このビジョンが好きなので、このビジョンを会社に浸透できたら、会社を好きになれます(笑)


小島:ビジョンへの経営陣の共感を得られたことが大きかったです。最初は経営陣とビジョン策定チームに距離がありましたが、ビジョンづくりの過程で、経営陣との距離が縮まり、一緒になって作り上げていく雰囲気に変化していきました。


藤井:たしかに、経営陣の熱量や共感度が徐々に上がっていくように感じました。こちらの想いや本気度が伝わったのかもしれません。ある時点で、「突き抜けたよね」「いいね〜」という反応に代わりました。その瞬間、共にビジョンを作る仲間という関係性に変わったのかもしれません。


橋本:周りにビジョンに共感してくれている人が多くて、会社を変えたいという人がこんなに社内にいるんだということにびっくりしています。自分自身も、ビジョンと一緒に作った「私達が信じること」が自分の意識の中にあって、自分がそこからズレている時に思い出して立ち戻る場所になっています。


藤井:ビジョン策定メンバー同士も、元々は表層的な付き合いでしたが(笑)、ビジョン策定のプロセスの中で、お互いの考え方や思いを深く知り合う関わり方ができるようになった気がします。ビジョン策定チームの中だけではなく、自分の組織の中でのメンバーへの関わり方という意味でも気づきになりました。お互い自己開示しあい、関係性を作りながら、メンバーのモチベーションを上げたり自律性を伸ばしていくような関わり方を意識するようになりました。


土井:縦割り意識で部門間の横のつながりが少なく、ある意味でバラバラだったところから、お互いの状況や価値観を理解し合えたことは大きな価値でした。ビジョンを明確化するプロセスの中で、想いがバラバラだったところから、共通の柱ができました。


明石:自分の想いと会社の現状のギャップにもどかしさを感じていましたが、自分の奥底にあった想いがビジョンに言語化されたと感じています。会社のメンバーに想いを伝えるための共通の言語ができた。この会社が向かう方向性が見えてきて、会社に対しての期待を再認識しました。そして、このビジョンに共感してくれる人たちがこれだけいる。ビジョンを体現していく仲間とともに、会社を成長させていきたい。今はそう感じています。



藤井:会社を自分たちで変えられる、という意識に変わったのは大きかったです。会社と合わない場合、転職という選択肢もありますが、今いる会社を変えられるならそのほうがいいと思います。


小島:ビジョン策定のプロセスの中で、ビジョンを作るという意識から、会社を変えることがゴールという意識に変わっていきました。会社を変えるために、自分たちがビジョンを体現しながら変化を推進するんだ、という気持ちです。


ー 「自分たちが会社を変えるんだ」という意識への変化は素晴らしいですね。また、実際の行動として、ビジョン浸透プロジェクトを皆さんが自発的に立ち上げて推進していることに、とても勇気づけられています。何がその変化を可能にしたのですか?


藤井:ビジョンを作ることのゴールは、会社を変えることです。そのビジョン策定のメンバーになるということは、会社の未来に責任を持つということです。そういう意識をメンバーで共有できたことは大きかったと思います。


明石:心から実現したいビジョンができたことにより、そのビジョンに魂を吹き込みたいという想いが生まれました。かたちだけ作って、会社に浸透しなければ意味がない。ビジョンが会社に浸透している姿を見たいという願いがあります。


藤井:「対話」は大事でした。表面的な議論で終わらせず、感情や想いまで突っ込んで対話をしていくなかで、全員の想いを共有することができました。


強瀬:「対話」する中で、他のメンバーの本気の想いが伝わってきました。その想いの共有の中で、自分の中で「そこに向かって変えていくんだ」という意識が生まれました。


ー その変化において、Co-Evolutionという第三者が関わる意味は何でしたか?


小島:普段考えないことを掘り起こしてもらえました。10年後の会社を想像する中で、最高の状態と最悪の状態の両方を味わった時、「変わらないといけない」という危機感が生まれました。そこから変えていく意志が生まれました。内面を掘り起こしてもらったのは大きかったです。


三塩:メンバー同士が想いを相互理解できるコーディネートが良かったです。自分とは異なる考え方や想いを理解し合う中で、一体感が生まれました。


藤井:気持ちや想いを表現するのは、自分たちだけでは恥ずかしくてできない。自分たちだけでは小っ恥ずかしいなと思うことを、たくさんやらされました(笑)。末広さんが自然に振ってくるから、自然にやっちゃう。場の作り方が上手いなぁと。ビジョン合宿では、そういった気持や想いの表現をすごく凝縮してやれました。合宿で一気にプロセスが進んだ感じがします。合宿前は1割で、合宿で9割進んだ感じです。あの場のファシリテーションやコーチング的な関わり方には感謝しています。


長谷川:普段の議論では、お互いの意見は分かっても、その背景にある価値観や想いには踏み込むことはなかなかありません。末広さんのファシリテーションで、それぞれが大切にしていること、価値観や想いがあふれてきました。それぞれの想いがどんどんつながっていって、飾らない私たち自身の言葉でビジョンができました。「魂」という言葉がビジョンに入ったのは象徴的です。「気持ちを前面に出してもいいんだ」「魂、って言ってもいいんだ」と。そんなところがビジョンへの共感につながっていると感じています。他の飾った言葉だったら、これほどの共感が生まれなかったと思っています。


藤井:議論だけではなく、対話が大事ということに気づかされました。深いところまで一度降りるということが大事ですね。


橋本:色んな視点に立つということを体験させてもらいました。過去、現在、未来の視点に立つということもそうだし、様々なステークホルダーの視点を体験しました。すごく視野が広がりました。自分が今まで固執してきたことから離れて、少し枠を外して考えられるようになりました。


土井:議論ではなく対話が大事ということを学びました。ビジョン策定メンバーの関係性が、率直に関わり合える関係性に変わりました。今までは、そういう関わり方をしてよいのか分からなかった。率直に関わり合い、対話していくなかで価値あることが生まれてくる。そういう関係性になれたことがうれしいです。


ー インテージテクノスフィアの素晴らしい変化は、会社を変えたいと思っているリーダーたちにとって希望だと思います。会社を変えたいリーダーたちへのメッセージをお願いします。


明石:自分の考え、想いを発信すること。共感する仲間を徐々に増やしていくこと。そのことでしか会社を変えていくことはできない。そのことを伝えたいです。


三塩:自分をさらけ出して、仲間を作ることです。会社の未来を担うその仲間たちでビジョンを描き、共有するプロセスは、必ず会社の未来につながります。


藤井:変化は一人から始まって全体に波及していきます。そのために、まず自分の想い、やりたいことを伝える。そして賛同してくれる人を集める。そんなふうにみんなで一緒にやりたいことをやっていけば、結果的に組織も会社も変わっていきます。まずは自分から動いてもいい、ということを伝えたいです。


長谷川:会社を変えたいと思っている人は、表面上あまりいないように見えても、実は結構います。会社を変えたいというビジョン策定チームの想いに触れられたことで、私も前向きになることができました。会社を変えたいと思っている仲間は必ずいます。「あなたは一人じゃない」ということを伝えたいです。


明石:共通のビジョンに向かって変革をするプロセスでは、社員側とともに経営陣も巻き込み、全方位的に進めることの大事さを伝えたいです。


土井:「会社を変えていいんだ」「自分たちで変えられる」ということです。会社が変わる必要がある、ということはみんな言いますが、「自分たちが変えていいんだ」ということを知ってほしい。それを知っていれば、動き方も発信の仕方も変わってくる。リーダーとしては、社員に「変えていいんだよ」ということ、「やっていんだよ」という安心感を醸成することも大事だと思います。



強瀬:言葉にすることの大切さです。私たちのビジョンは、言葉の一つひとつが、自分たちが本気で想っていることになるように選びながら創りました。自分たちが何を想っているのか、その想いを言葉にすること、それが相手に伝わるように考え抜くこと。想いを伝える姿勢が大事です。




小島:私たちのビジョンには、「魂」という言葉が入っています。組織に魂を込めれば、組織は変えられます。組織の進化は、リーダーの意識レベル次第なので、リーダーの意識の進化が大事です。視座を高く、たとえば社長の目線で考える。リーダーたちが視座を高く持っていることが、組織を変えるためには重要です。その高い視座で、魂を込めて、本気で変えたいことを伝えていく。そのことで、仲間が増えたり、共感してくれる人が増えていきます。


橋本:とにかく変わらなきゃと思っている人には、逆に変えることだけに意識を向けないほうがいいということも伝えたいです。変えるということは、今をある程度否定することです。否定だけだと苦しくなってしまうし、抵抗を生んでしまいます。変えるだけではなくて、なぜ今自分たちがそうなっているのか、どうしても残していきたいものは何か、何が自分たちの財産なのか、そういう大事にしたいことをしっかり握った上で、じゃあどこを変えるのかというふうに考える。変える前に、これまで頑張ってきた自分たちを肯定することが大事だと思います。



 

3.組織変革成功のキーポイント


Co-Evolution株式会社 代表 末広信太郎


その後、インテージテクノスフィア社は、ビジョン浸透プロジェクトを立ち上げ、全社への浸透を継続しています。ビジョンへの共感の輪は確実に広がりつつあり、それによって社員の意識の変化も始まっています。元ビジョン策定チームのメンバーは、全員が自発的にそのままビジョン浸透のコアチームに生まれ変わり、全社をビジョンに向かって変革し続ける原動力になっています。私も引き続きビジョン浸透の支援させていただきながら、「このコアチームの関係性がある限り、インテージテクノスフィア社はビジョンに向かって変わり続ける会社であり続ける」ということへの確信を、肌感覚で感じています。ビジョンづくりのプロセスを経て、インテージテクノスフィア社は、自らを変革し続けるエンジンを搭載した会社に進化しました。このような進化は、先が見えないこの激動の時代に、多くの組織が必要としているものです。何がこの変化を可能にしたのでしょうか?


インテージテクノスフィア社の組織変革の成功要因を整理すると、以下の6つが浮かび上がってきます。


1.ゴール設定  ビジョンづくりのゴールを組織変革においた

2.コアチームづくり

 会社の未来を担うリーダー達を各部門から集めてビジョン策定チームをつくった

3.関係性づくり

 ビジョン策定チームで本音で話せる関係性をつくった

4.本音の対話

 価値観が異なるメンバー全員が心から共感できるまで本音の「対話」を続けた

5.ありたい姿明確化

 元々自分たちの中にあった、自分たちが本当にありたい姿を「信じること」として表現した

6.体現

 コアチームがビジョンを体現するリーダーとして変革の原動力でありつづけている




以下、それぞれの要因を順番に見ていきましょう。


1.ゴール設定 ー ビジョンづくりのゴールを組織変革においたこと


経営陣からビジョン策定リーダーである藤井氏への当初のオーダーは、「ビジョンを作ること」でした。しかし、藤井氏は「ビジョンを創ることのゴールは、会社を変えること」という想いのもと、ビジョン策定プロジェクトを立ち上げました。


そもそも、ビジョンは何のためにあるのでしょうか?特定の目標を達成するためでしょうか?業績を上げるためでしょうか?そうではありません。ビジョンとは、社員の心をインスパイアし続け、会社が「ビジョンに向かって進化し続ける組織」であり続けるためのものです。ビジョンが、心から実現したいことであるからこそ、ビジョンは社員の心をインスパイアし、社員は「自律的」なリーダーシップを育みます。ビジョンが心から共感できるものであるからこそ、同じ想いを持ったつながりの中で、社員が「協働的」にビジョンに向かってチャレンジし続けます。もし「自律」も「協働」も必要ないのなら、旧来型の組織のように業績目標を設定し、その目標を達成するためにはっぱをかければよいのです。しかし、この正解のない時代に価値を創造し続ける組織であるためには、「自律」と「協働」は必要不可欠です。ビジョンがあるから「自律」と「協働」を通じて進化し続ける組織になるのです。


藤井氏は、ビジョンとは会社を変えるものであり、その変化とは社員の意識そのものの変革であるという想いでプロジェクトを始めました。まずはじめのゴール設定が、ビジョンづくりがそのまま組織変革につながっていく要因となりました。



2.コアチームづくり ー 会社の未来を担うリーダー達を各部門から集めてビジョン策定チームをつくったこと


藤井氏は、ビジョンを策定するにあたり、2つの条件でメンバーを集めました。ひとつは、「会社の10年後を担うリーダー達」を集めること。もう一つは、価値観の異なる各部門のメンバーを集めることです。


ひとつめの条件に関しては、ビジョン策定を現経営陣ではなく、これから会社の未来を担うリーダー達で行ったことが、会社の未来を創っていくという意識でビジョンを生み出すことにつながっていきました。また、ビジョンづくりの過程で、ビジョン策定チームはその未来に向かって会社を変えていく原動力であり続けるのだという意識が共有されていくことにつながっていきました。


もうひとつ条件である、価値観の異なる部門のメンバーを集める際、「こんなに価値観が違うのに、全員が心から共感できるビジョンを本当に作れるのか」という不安が藤井氏にはありました。しかし、これから全社員が共感できるビジョンをつくるためには、少なくとも各部門のキーパーソンであるビジョン策定メンバー全員が共感できるビジョンであることは不可欠です。藤井氏はそのような考えのもと、策定チームのメンバーを各部門から集めました。


組織変革において大事なことは、その会社の中で「最も影響力のある関係性」に働きかけるということです。本当の意味での変革は、水面に波紋が広がっていくような、バイブレーションが波動として伝わっていくようなプロセスです。最も影響力のある関係性が変化すると、その変化のバイブレーションが一番全社に伝わっていきやすいのです。


インテージテクノスフィア社の場合、現場に対して影響力のある各部門のリーダーがまず変わることが、全社の変革につながる条件を満たしていました。10年後の会社の未来を担うキーパーソンが各部門から集まって、たとえ難しいとしても全員が共感できるビジョンを創るのだというコミットメントが、ビジョンづくりが真の変革につながる要因となりました。



3.関係性づくり ー ビジョン策定チームで本音で話せる関係性をつくったこと


ビジョンづくりのプロセスは、まずビジョン策定チームの中での深い相互理解を通じた関係性づくりから始めました。それぞれのメンバーがどんなことに喜びを感じるのか、どんなことが嫌なのか、価値観としてどんなことを大事にしているのか、自分の人生の目的をあえて言葉にするなら何なのか、この会社について感じている課題や、最高の可能性は何なのか、それぞれの深いところの想いをメンバー全員で共有し合いました。その中で、お互いの価値観が全く違うことに驚きを覚えたりしながらも、お互いへの共感も醸成されていきました。初めは表層的だった関係性が、冗談を言い合える柔らかな雰囲気、違う意見も表明し合いながら、お互いを尊重し、聴き合う関係性へと進化していきました。


組織変革において大事なのは、まずは「関係性の質」を上げることです。「本音を言っても大丈夫」という心理的安全性を醸成すること、とも言えます。心から共感できるビジョンを創るためには、全員が本音で話せる関係性づくりが不可欠です。本音が話されていない状態で表層的に合意したとしても、それは社員の心をインスパイアするビジョンにはなり得ません。すべての異なる価値観が表明されることが許されるからこそ、それらの相違を超えた会社の本質にたどり着くことができ、本質的だからこそ社員の心を揺さぶるものになります。お互いを深く知り、違いを尊重し合えているという信頼関係、心理的安全性があるから、ビジョンづくりという時には意見が対立し合うプロセスの中でも、違いを乗り越えて全員が本音を伝え、聴き合いながら、全員が共感できるまで諦めずに向き合い続けることができるのです。



4.本音の対話 ー 価値観が異なるメンバー全員が心から共感できるまで本音の「対話」を続けたこと


ビジョンづくりのプロセスでは、部門によって異なる価値観がぶつかる場面もありました。どちらかというと守りの事業をしている部門と、逆に攻めの事業をしている部門で、価値観や組織風土が異なるのは当然のことです。今回のビジョン策定のプロセスでは、今会社に起こっていることの構造やその構造を生み出している組織のマインドセットを掘り下げたり、各人の感情や想いを表出化し続け、全員が心から共感できるまで対話をつづけました。


対話の過程で、表面的な視点の違いの奥にある、共通の願いが立ち現れてきました。自分たちは単に企業向けのサービスを提供するのではない、「世の中を感動させる」存在であるという存在目的が立ち現れてきました。これは通常のシステムインテグレーターにはない、マーケティングを出自とするインテージテクノスフィア社だからこその、「世の中」、社会全体への視座を持った存在であるというアイデンティティにつながった瞬間でした。


表面的な相違を超えて、共通の願いにつながっていくために必要なことが、「対話」です。対話とは、「表面上に見える事柄や視点の違いの奥にある、感情、想い、願いを伝え、聴き合うこと」です。自分を深く掘り下げて、気持ちや願いを表現する。相手の深いところにある気持ちや願いを聴く。伝え、聴き合いながら、共に深く潜っていくプロセスの中で、組織にある共通の痛みや、その奥にある願いにつながっていきます。本質的なビジョンは、この深いところにある願いから立ち現れてきます。インテージテクノスフィア社にとってのそれは、「世の中を感動させる自分たちでありたい」という願いでした。メンバー全員が、「対話」を通じてこの願いにつながりました。この願いが、ビジョン策定メンバー全員の心からの願いであったからこそ、このビジョンは社員の心を揺さぶるものになったのです。



5.ありたい姿明確化 ー 元々自分たちの中にあった、自分たちが本当にありたい姿を「信じること」として表現したこと


ビジョンを描くことと同様に大事なことが、そのビジョンを実現するための自分たちの「あり方」や「スタンス」を明確にするとです。インテージテクノスフィア社でも、そのためのものとして「行動基準」もしくは「バリュー(価値観)」を明確化することを検討していました。しかし、検討の過程でそれらを表現しようとした際、「〜すべき」的なニュアンスになっていることへの気付きがありました。「〜すべき」だと、社員にとっては外側から押しつけられるようなインパクトになるのではないか。そうではなく、社員の自分自身の内側の原動力を引き出したい。そんな声が上がってきました。そして、そのようなものとして「私たちが信じること」として表現しました。「信じること」とは、こうすべきと押しつけられるものではありません。それを本当に信じて体現するリーダー達がいて、そのあり方にインスパイアされることで、社員もそれを信じるようになっていく、そんな願いが込められています。


旧来型の組織では、「やるべきこと」がMUSTとして決まっており、そのことを遂行するために必要な態度が「行動基準」として設定されます。このことは決して悪いわけではなく、ある程度正解が明確で同じ品質のものを大量に生産するようなビジネスモデルにおいては大事なことです。一方で、変化が激しく市場のニーズも多様化・複雑化するビジネスにおいては、基準に従うマインドセットだけでは、価値を生み出すことが難しくなります。そのようなビジネスにおいては、社員一人ひとりが高い視座を持ち、自律的に考えて行動することが求められます。その視座と自律性の源泉は、その人が「外側」の基準に従うことではなく、その人の「内側」にある、その人が「信じていること」です。人は、自分が信じていることに従って、世界を解釈し、働きかける存在だからです。自分が信じていることが自分の「内側」にあること、それが「自律性」の源泉になります。


インテージテクノスフィア社が「私たちが信じること」として表現したことは、元々多くの社員の「内側」にあり、脈々と受け継がれてきたものでした。しかしそれらは、暗黙知の領域にとどまっていて、明確には伝えられてきませんでした。その暗黙知が「私たちが信じること」として表出化されたことで、より明確に組織の中で体現されながら、引き継がれていくものになりました。組織変革とは、無かったものを注入するのではなく、組織に元々あるけれど見えにくい素晴らしさを、見えるようにして広げていくということでもあるのです。



6.体現 ー コアチームがビジョンを体現するリーダーとして変革の原動力でありつづけていること


ビジョン策定チームのメンバー全員が心から実現したいビジョンができたことで、ビジョン策定チームのメンバーが、このビジョンに向かって全社を変革していきたいという気持ちになったのは自然なことでした。ビジョン策定チームは、ビジョン浸透のプロジェクトを自発的に立ち上げ、毎週ビジョン浸透会議を開きながら、ビジョンに向かって組織を変化し続ける原動力として在り続けています。


ビジョンに向かっての組織変革の肝は、そのビジョンが「言葉」として存在することではなく、そのビジョンを「体現」し続けるリーダーたちの存在です。人が言葉によって受ける影響は一部です。人はその人の存在全体から発せられるものを受け取り、影響を受けます。社員をインスパイアするビジョンにとって大事なのは、そのビジョンを存在として体現しているリーダー達が、周りの社員をインスパイアし、インパイアされた社員がさらに周りの社員をインスパイアしていくという循環を起こす原動力になっていることです。


インテージテクノスフィア社のビジョン策定メンバーは、まさにこのようなリーダーたちとして、ビジョンを体現しながら社員をインスパイア続けていく存在として、ビジョン浸透活動を続けています。毎週のビジョン浸透会議には、どんなに目の前の仕事が忙しくてもコアチームのメンバーが集まり、ビジョンについて語り、それをどう社員に浸透させていくのかについて対話を重ね、アクションを取り続けています。素晴らしいことは、この会議のたびに、メンバーが口々に「ビジョンについて語ると元気になる!」と言っていることです。メンバー全員が、会社を変えたいという想いを胸に、それぞれの純粋な意欲からビジョン浸透活動を続けているのです。このビジョン浸透のコアチームがある限り、インテージテクノスフィア社はビジョンに向かって進化し続けていく。そう確信しています。



最後に

インテージテクノスフィア社のビジョンづくり、それに続くビジョン浸透のプロセスで会社が変わっていくプロセスに伴走させていただけていることは、私にとって本当に幸せな体験です。私自身が大企業の一会社員だった頃、会社という存在は大きすぎて変えることは難しい、と諦めに近い気持ちを感じていた時期もありました。今回、インテージテクノスフィア社が本当に変わっていく姿に立ち会わせてもらったことで、私はあらためて「組織は変われる」ということを教えていただきました。彼らの「私たちの信じること」にあるように「一人の動きが全体を変え、全体の動きで世界は変えられる」のです。そのことを教えていただいた、インテージテクノスフィアの皆様に心から感謝するとともに、これからの皆様の進化を心から応援する気持ちと共に、今回のインテージテクノスフィア社の組織変革事例の紹介を閉じたいと思います。


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