top of page

【組織変革事例】シナジー効果が十分に出せていない、本音で話せない組織風土の変革 ー株式会社スパイスボックスー

<目次>

1.事例概要

2.事例インタビュー

3.組織変革成功のキーポイント

 

1.事例概要


広告業界がデジタルシフトしつつある今、同業界のデジタルコミュニケーションを担うスパイスボックス社は、個々の社員の強みを活かして新たな価値を生み出す経営へのシフトを必要としていた。しかし実際には、各事業部は横のつながりが薄くシナジー効果が十分に出せていない、日本企業的な同調圧力があり本音で話せない風土などの課題があった。そんな中、スパイスボックスは「自律分散型組織」の実現を目指し、組織風土の変革を目指す取り組みを開始した。


【プロジェクト概要】期間:5ヶ月


●組織変革コンサルティング

組織アセスメントにより、組織の現状をインタビュー・アンケートで可視化。経営者+組織開発チームと共に、現状把握にもとづいた変革のゴールを設定し、変革プロセスを推進。


●システムコーチング

組織と関係性のためのシステム・コーチング® ORSC(Organization&Relationship Systems Coaching)という組織向けのコーチング手法を用い、マネジメント層を対象に、本音の対話を通じて、組織内の心理的安全性の醸成、対話を通じた組織全体視点の獲得によるリーダーシップ向上。



 

2.事例インタビュー


株式会社スパイスボックス

執行役員 事業統括責任者 森竹アル

ゼネラルマネージャー 組織開発担当 咲本明宏

経営戦略室 人事 組織開発担当 永井なつみ

インタビューアー:Co-Evolution株式会社 代表 末広信太郎




ー 元々組織にたいしてどのような課題感をお持ちだったのでしょうか?


森竹:

まず、目に見えている課題として、私たちが「ビックリ退職」と呼んでいる退職が多い状況がありました。社員が退職したいほどの気持ちになっていることを上司も誰もキャッチできておらず、本人が辞めると決めてから退職の意志を知り「え〜、辞めちゃうの?」とビックリしてしまうことです。システムコーチングを受けた2018年~2019年は、離職数が多く、13件のビックリ退職がありました。


ビックリ退職が多発するのは、全社にはびこる「思っていることを言えない空気」が原因だと感じていました。今のキャリアに不満足だと言ったら怒られるのではないか。裏切り者扱いされるのではないか。本音を言うことへの恐れがあるように感じました。本音を言えずに辞めることを決め、転職活動を始めてしまう。それが、ビックリ退職という事象につながっていたように思います。


会社の空気は、その会社で主要な役職についている人たちよって作られる面が大きいと思います。各事業部の事業部長と経営者である私で構成しているマネジメント層の空気が、全社の空気を作っていると感じました。当時、マネジメント層の中には緊迫感がありました。事業の数字や責任を事業部長に委ねることでスピード感のある組織運営を行っていたのですが、それぞれが自分自身や事業部を守る力が強く、周囲からうまく行っていない部分を指摘されないように防御しなければならない、そんな雰囲気でした。定期的にマネージャー会議を行っていましたが、そこはあくまで各事業組織の代表者の会議でしかなく、チームにはなっていませんでした。私は、各組織の枠を超えた会社全体の景色で会話がしたかったのですが、それができない関係性になっていました。


咲本:

当時私はマネージャー会議に参加する一人でしたが、本音を言える心理的安全性がありませんでした。心理的安全性という概念すらありませんでした。言えない、言いたくない、というのがはびこっていました。


ー なぜマネジメント層でシステムコーチングを受けることにしたのですか?


森竹:

人事の永井さんからの強力なプッシュがあったからです(笑)


永井:

マネジメント層へのシステムコーチングを提案するまでにはいくつかのプロセスがありました。もともと、組織・人材開発の取り組みは、1on1のコーチングから始めました。私がコーチとなり、希望者向けにコーチングを行うものです。コーチングの最中、会議室の中では社員がイキイキと輝くのですが、執務スペースに戻ると組織のパラダイムに飲まれてなかなか思うようにチャレンジできない姿を見続けていました。そこで、チーム、組織への働きかけが必要だと気づきました。組織はいくつかの事業部に分かれていたので、事業部ごとのオフサイトミーティングを始めました。事業部にはどんな多様性があるのか、自分たちの強みは何か、目指したい姿は何か、など対話の機会を設けたのです。その取り組みによって、新しい可能性が生まれ、未来の姿が見え、チームとしての素晴らしい一体感が出てきました。同時に、チームとしての一体感はあるものの組織がタコツボ化していくようにも感じ始めました。たった一人でもなく、事業部だけでもなく、会社全体としての力を引き出すには何が必要なんだろう?と考えました。そしてこれは、会社を引っ張っているリーダーたちの関係性が全社に影響を及ぼしているのではないかと気づいたのです。組織のトップ層がつながって1つのチームになることが、全社としての可能性を発揮していくために必要。そう思い、マネジメント層の関係性に直接働きかけることができる、システムコーチングを提案しました。ここまでのプロセスがあったからこそシステムコーチングが本質的に組織の未来に役立つことを確信していたので、森竹から二度ほど断られましたが(笑)プッシュし続けて実施に至りました。


ー システムコーチングを受けた結果、どのような変化がありましたか?


森竹:

ビックリ退職がほぼなくなりました。年間13件あったのが、1件まで減りました。それはリーダー同士が本音で話せるようになっただけに留まらず、全社的に上司部下の関係性が本音で話せる関係性になってきたということだと思っています。


咲本:

大きな変化は、会社の中で自分の意見を言える心理的安全性が生まれたことです。マネジメント層の中で、相手の状態に興味を持ち、それぞれが気持ちを共有し合うようになりました。お互いの背景を踏まえて、自分ごと化してアドバイスし合うということが普通になりました。マネジメント層の関係性が変わり、その活動が社内に影響を与え、全社にも心理的安全性が広がりました。


永井:

みんなで会社を創っていこうという意思が芽吹きました。マネジメント層で会社の存在目的を一緒に考えたり、お互いの想いを知りたいということで自発的に泊まりの合宿をやったりするようになりました。一人も置いていかない、みんなで創ることを諦めないという、スタンスに変わりました。


ー システムコーチング完了後も、組織変革を自分たちで続けているとお聞きました。どのように進めてきたのでしょうか?


咲本:

大きく2つのフェーズがあります。最初のフェーズは、マネジメント層主導の組織づくりのフェーズです。システムコーチングでマネジメント層として自分たちが変わったという実感から、この関係性を全社に広げる活動を始めました。マネジメント層主催で、組織づくりを全社に本格的に導入するための全社イベントも行いました。このイベントはとても一体感がある状態で終わることができ、全社員に対して自分たちの想いから関わることができた達成感がありました。マネジメント層での振り返り会が盛り上がり、会場を追い出されてからも近所の公園で蚊に刺されながら延々と話し続けたことは良い思い出です。それくらいの一体感がありました。


次のフェーズは、全社員を巻き込んでの組織づくりの活動です。このフェーズでは、全社員の中からも有志メンバーを募って組織づくりの活動を推進していきました。それまでの活動で心理的安全性が醸成されていたので、若手のメンバーも「自分が発言していいんだ」「会社のことに対して自分が関われるんだ」という気持ちで組織づくりに関わるようになりました。この活動により、組織づくりに直接関わっていない社員含めて、社員がみんなで考えてみんなで民主的にやっていくという組織風土が育ちつつあります。主体的に会社の広報活動を行いたいという若手が出てきたり、新人に仕事のノウハウを教える取り組みが自発的に始まったり、中堅社員が社内ラジオを立ち上げて自分たちの想いを発信し始めたり。社員が自分たちと会社の進化ということをものすごく考えて、自分のストーリーを語って提案するというようなこともどんどん生まれています。その自然発生的なエネルギーに、私の想像を超えた組織の進化を感じています。今はこのエネルギーをさらに広げていきたいと考えています。


ー 本当に素晴らしい変化ですね。組織が変化したキーポイントは何でしょうか?


咲本:

システムコーチングのワークショップで、マネジメント層の相互理解ができたことが大きかったです。人の気持ちになるとか人の目線になるとか言っても、実際にはなかなかできることではありません。ですが、システムコーチングの中で、単に話を聞いて承認するということとは次元の違う「相手を受け入れる」という体験をしました。すごく印象深い体験でした。本当に組織が変わるということを体験しました。その体験があったので、これは全社に広げていくことができると思いました。それが会社にとって必要なことだと感じました。


森竹:

たしかにインパクトが強い体験でした。お互いのことを理解するというスイッチが入りました。それまで防御に夢中で、人を思いやる、相手の事情を考えるという発想がなかったのが、あそこで変わりました。


組織が変化した前提として、マネジメント層の個々人のコミットメントがあったと思います。最初にシステムコーチングの場に来た時はみんな疑心暗鬼の状態でしたが、次第にみんな覚悟を決めて臨んでくれるようになりました。


永井:

システムコーチングの場とは別に、マネジメント層で本音で話す場を何度も持ったことも大事なプロセスでした。その中で、疑心暗鬼で臨むよりも、どうせやるんだったら本気で取り組もうと覚悟が決まりました。


ー その変化において、私たちCo-Evolutionという第三者が関わる意味は何でしたか?


森竹:

私が一番感謝しているのは、信じ続けてもらったことです。私たちがグレながらも更生していくのを見守ってくれている感じ(笑)最終的には大丈夫だと、変われるということを信じてもらっていたことが大きいです。本質はテクニカルなことではないのかもしれません。


永井:

当事者だけだと扱えないこと、言えないことがあります。中にいる当事者には見えないことがあります。扱うにしても扱い方が分からないということもあります。それが外部のCo-Evolutionさんにお願いした理由の一つです。


咲本:

Co-Evolutionさんのスタンスは、私たちを個人としてではなく、関係性システム(組織)として見てくれるという点で一貫していました。私たちの組織を一つの人格、生命体として見て、対面してくれました。それは外部の第三者にしかできないことです。そのように対面されることにより、関係性というものがそこに存在すること、自分たちはチームであり関係性システムなんだという意識が生まれました。自分の評価を気にする意識を超えて、チームとして、組織としての意識で考えることができるようになりました。心理的安全性もそこから生まれてきました。


ー 組織を変えたいリーダーたちへ一言。


森竹:

多くの組織には、ビックリ退職があると思います。それはなくすことができるものだと知ってもらいたいです。


永井:

個を超えてチームとしての力を発揮していきたいという組織に、それは可能だということを伝えたいです。


咲本:

組織人格ということの概念、感覚を身につけるということが組織を変えていく原動力になるということを伝えたいです。会社を自分ごと化してほしいとか、求めるけど無理じゃないですか。そもそも。社長や責任ある立場にいれば可能ですが、そうじゃない人には難しいです。しかし、チームや組織に自分を超えた人格があるという感覚、概念というのは、それが生まれることによって組織が変わっていきます。これは頭で考えたことではなく体験的に感じていることです。


全社ミッションとして組織づくりをやっていますが、組織人格で考えるようになると、怖くなくなってくるんですよ。自分が先頭切ってみんなの前で発信するとか、失敗するかもしれないとか、矢面に立ち続けることが怖くない。自分が否定されたというふうにならない。それは自分を超えた組織という感覚が生まれたから起こり得ていることです。システムコーチングを受ける中でその感覚が構築されました。

これは私個人だけの進化ではなく、組織としての進化です。この組織がそういう関係性システムになっている。こんな変化が可能だということを伝えたいです。



 

3.組織変革成功のキーポイント


Co-Evolution株式会社 代表 末広信太郎


スパイスボックスの組織風土変革の成功は、社員が全社視点を持って活動する自ら変革し続ける組織風土という、変化の激しい時代に多くの企業が目指す姿を体現した事例です。また、多くの企業が陥りがちな、組織の縦割りという課題を、関係性へのアプローチによりクリアできることを示す事例でもあります。


ここからは、スパイスボックス社における組織変革がなぜ成功したのか、その成功要因を整理したいと思います。


スパイスボックスの変革の成功要因として、以下の5つが挙げられます。


1.組織内で最も影響力の大きい関係性への働きかけ

2.相互理解を通じた心理的安全性のある組織風土醸成

3.事務局のリーダーシップ

4.変革の自走化

5.組織人格・関係性システムの自覚


以下、一つひとつ見ていきたいと思います。


1.組織内で最も影響力の大きい関係性への働きかけ


組織とは関係性です。会社全体が一つの関係性であり、その中には公式非公式の様々な関係性のサブセットがあります。組織の風土を変えていくために重要なのは、その組織風土に最も影響を与えている関係性に変化を起こすことです。それにより、変化が全組織に波及していきます。一般的に、その組織の中で重要なポジションを担う人たちの関係性は、組織風土に大きな影響を与えています。スパイスボックス社の場合は、それは経営者と事業部長で構成されるマネジメント層の関係性でした。


社内で最も影響力のある関係性への働きかけにより、その関係性の質が、防御モードから、本音で話せる心理的安全性のある関係に変化しました。その変化が、各事業部長配下の組織全体にも広がっていきました。全社的に自分の感じていること、考えていることを言ってもいいのだという組織風土が醸成されました。それが、ビックリ退職が13件から1件に激減するという明確な結果として現れたのです。


2.相互理解を通じた心理的安全性のある組織風土醸成


組織はなぜ部分最適に陥るのか。組織はなぜ縦割りになってしまうのか。これは階層型組織の宿命ともいえる課題です。組織が分かれると、自分の組織を守ろうとする論理が生まれます。各事業組織はそれぞれ事業責任を負うので、その責任を守ることが最優先になります。組織の枠を超えて全社視点で協力し合うということを起こすためには何が必要なのでしょうか?


戦略に沿った組織設計や制度設計というのが一般論です。しかし組織構造や制度などのハード面だけを整えても人は動きません。スパイスボックス社は、経営者と事業部長からなるマネジメント層が、相互理解を通じて関係性を構築するというソフト面のアプローチで組織の縦割りという課題を乗り越えました。相手がどのような立場に置かれているのか、その苦しみや喜び含めて本当の意味で相手の立場に立つ、共感するという深い相互理解をマネジメント層として体験しました。その中で、人と人の心のつながり、相手のことを自分ごと化して助け合うような関係性が結ばれました。そのつながりが全社に広がっていくことで、本音で話し合える心理的安全性のある組織風土が醸成されていきました。その心理的安全性という土壌のうえに、社員が自分や会社全体の進化を考えて自発的に行動するという風土が芽生えたのです。


3.事務局のリーダーシップ


今回の変革はCo-Evolutionとして外部から支援させていただきましたが、スパイスボックスの変革の大きな成功要因は、社内に組織づくりの強力な推進者がいたとうことです。システムコーチングを受けていただいている期間中、スパイスボックス社内では組織開発担当の永井氏が場を作り、本音での対話を継続的に行っていました。Co-Evolutionは、永井氏と常に連携しながら、一緒にプログラムを作っていきました。永井氏が継続的にマネジメント層を巻き込みながら活動を推進するという原動力があったからこそ、外部からの支援が有効に機能しました。そして、永井氏の熱意は、咲本氏という新たな組織づくりリーダーに引き継がれ、活動は広がっていきました。組織の変化を生み出し続けるためには、組織内部に熱意を持って組織に関わり続ける存在が不可欠です。


4.組織変革の自走化


組織の変革は一度やって終わりではありません。環境は変化し続けるので、組織は常に自らを変革し続ける必要があります。スパイスボックスの素晴らしいところは、第三者の支援による変革を一つのきっかけとして、自らを変革し続ける自走を始めたことです。マネジメント層が一つのチームとなり組織づくり活動を始めました。さらに、有志も募りながら全社を巻き込んでの活動への進化が起こりました。なぜ、組織変革の自走化が可能になったのでしょうか?


その大きな要因は、会社のコアであるマネジメント層の関係性が本質的に進化したことです。マネジメント層が自分たちの関係性の進化を体感し、会社全体のありたい姿を体現し始め、「この関係性を広げたい」という内発的動機から共に動き始めました。一人だけの変化は、既存の組織のパラダイムに飲まれて元に戻りがちです。しかし、集合的な関係性の進化は、不可逆的な進化になりえます(みんなで一緒に変われば元に戻りにくい)。マネジメント層が内発的動機から楽しそうに活動しているのを全社員が見て、組織づくりは全社的な活動へと広がっていきました。


5.組織人格・関係性システムの自覚


私たちは、自分たちを世界から切り離された「個」として認識しています。一方で、誰一人として、世界から切り離されて一人で生きている人はいません。私たちはつながり、関係性の中で生かされている存在です。関係性とは相互に影響しあっているということです。しかし、関係性は目に見えないため、意識されにくいものでもあります。


対話による相互理解を通じて、目の前の相手への共感が生まれました。そして、システムコーチングのワークショップの中で、自分たちを一つのチーム、組織人格として見続けることを通じて、個を超えた組織全体の視座がマネジメント層の中に生まれました。この組織が必要としていることは何だろう?という視座で考えることが当たり前になりました。個人が組織全体の視座を獲得した時、個人の内発的動機と組織貢献は、矛盾なく統合されます。これが、スパイスボックスの中で組織づくり活動が自主的に行われたり、組織全体のための自主的な提案が生まれ続けるという、新たな価値を生み出し続ける組織への進化につながったのです。


最後に


スパイスボックスの皆さまの変革に伴走させていただいたことは、個人を超えた関係性システムとして組織が進化する様を見せていただいた、大変貴重な体験でした。自分たちが関わった組織が、その後も進化し続けていることにとても勇気づけられます。「自らを変革し続ける組織」というこれらの時代に必要とされる組織の可能性を見せていただきました。スパイスボックスの皆さまのさらなる進化をお祈りしています。本当にありがとうございました。


bottom of page